いつもできていたことがある日当然にしてできなくなってしまう。
そんな経験をしたことがある方はいらっしゃいませんか?
実はここ最近思うように印鑑が彫刻できない日が続いていました。
どれだけ彫刻刀を研いでみても全然だめで、まるではじめて印鑑を彫刻した頃にもどってしまったような、そんな恐怖さへ覚えました。
デジタル世代に生まれ、アナログの時代にはできなかったことがいとも簡単にできてしまうことは非常にありがたいのですが、そこに僕の職人としての苦悩の種があったのです。
今はどこにいてもパソコンかもしくはスマートフォンがあって、自分にできないことや自分の頭のメモリースティックに入りきらない情報はすべてその中にしまいこんで、必要な時に取り出すことができる。コンピュータは言うまでもなく最高のツールです。
しかし、職人技というのはどれだけ技術が進歩しようとも最終的には人間の5感というものが重要なのです。今の僕は、体調の変化はもちろんのこと、ちょっとした感情の乱れによって簡単に手元が狂ってしまいます。
例えて言えば、野球選手のイチローや松井。彼らが長期的に一定の成果を出し続けることができるのはプロでありながらもストイックに練習に励み続けてきたからだとテレビ番組でみたことがあります。毎年のようにバッティングフォームを微妙に変え、相棒であるバットも数ミリ単位で微調整しているのだそうです。
そのことを思い出した時に、僕たち印鑑彫刻士の世界も同じで、国家試験に合格したからゴールとか、うまく彫れるようになったからはい、おしまい。ではダメなんだと心から痛感しました。
プロになるために努力するのではなく、プロになったからこそ努力し続けることの方が重要なのだと、改めて気付かされました。
今はもう一度基礎からやり直すことで感覚を取り戻し、それが自信にもつながって調子があがってきていますが、この職人としての苦悩はいろんなカタチを変えてやってくると思います。
しかし、その度に真正面から立ち向かい、原因と解決策を見いだしながら成長していきたいと思います。